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岐阜地方裁判所 昭和63年(行ウ)5号 判決 1990年6月11日

岐阜市曽我屋一五四六番地

原告

坂口幸雄

岐阜市千石町一丁目四番地

被告

岐阜北税務署長

鷲見隆三

右指定代理人

今泉常克

谷口実

西野清勝

中川道生

長谷川巌

前川晶

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五九年三月二九日原告に対し行つた昭和五七年分相続税にかかる更正処分のうち、相続税額が八二万〇二〇〇円を超える部分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五七年四月二三日父坂口為市の死亡により同人の財産を相続したので、昭和五七年一〇月二三日、被告に対し、取得財産価額二七一六万一一九六円、課税価格二六二一万円、差引相続税額一六五万五一〇〇円とする昭和五七年分相続税申告書を提出した。

2  その後、原告は、昭和五八年一〇月二二日、差引相続税額を八一万七七〇〇円に減額して欲しい旨の更正の請求をした。

3  これに対し、被告は、昭和五九年三月二九日、取得財産価額二三七一万四四〇七円、課税価格二二七六万三〇〇〇円、差引相続税額一〇七万一四〇〇円とする更正処分(以下、「本件更正処分」という。)を行つた。

4  しかしながら、本件更正処分のうち、相続税額が八二万〇二〇〇円を超える部分は無効である。

すなわち、原告が相続した別紙物件目録記載の農地等一三筆(以下、「本件農地等」という。)の時価による価額は二二〇四万四九七四円であるにもかかわらず、被告は誤つてこれを二三七一万四四〇七円であると認定し、原告の更正の請求を不当かつ違法に一部棄却した。

被告がこのように取得財産価額の認定を誤つた理由は、相続税法二二条所定の「時価」の解釈を誤り、本件農地等は通常の農地であるにもかかわらず、税務上の宅地と誤認し、宅地への転用を想定していわゆる宅地見込価格を含めて評価したためである。本来、このような農地はいわゆる農業投資価格によつて評価すべきである。

5  更に、被告は、原告に対し本件更正処分後の税額を記載した通知をしていないから、本件更正処分には手続上の瑕疵がある。

すなわち、被告が原告に送付した通知書には、「この通知により減少する税額」の記載があるだけで、更正処分前後の税額や更正処分により減少する税額の記載がなく、これは国税通則法二八条の要件を充たしていない。

6  よつて、原告は被告に対し、本件更正処分のうち、正当な取得財産価額は二二〇四万四九七四円で課税価格は二一〇九万三〇〇〇円であるので、これにより計算して得られる差引相続税額八二万〇二〇〇円を超える部分についての無効確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実は争う。

相続税法二二条所定の「時価」とは、当該不動産の客観的交換価値、すなわちそれぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解されているところ、被告は、本件農地等の評価に当たつては、農家が農業の用に供することを目的とした売買において通常成立すると認められる売買実例価額、精通者意見価格などを基に算定しており、本件更正処分は何ら相続税法二二条の時価評価の原則に反するものではない。

仮に、本件農地等の評価が過大であつたとしても、これは本件農地等の現況などの事実関係を精査してはじめて判明する事柄であり、何人の判断によつてもほぼ同一の結論に到達しうる程度に明らかであるとはいえないから、明白かつ重大な瑕疵が存するとは到底認められない。したがつて、本件更正処分を無効とすべき違法事由には当たらない。

3  請求原因5の事実は争う。

本件更正処分にかかる通知書には、<1>更正前の課税標準等及び税額等、<2>更正後の課税標準等及び税額等、<3>更正前の納付すべき税額が減少する部分の税額などの記載要件をすべて充たしており、適法なものである。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、同4につき検討する。

ところで、課税処分が無効とされるためには、課税要件の根幹について内容上の過誤があり、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情があるほか、重大かつ明白な瑕疵が存することを要する。

しかるに、原告が請求原因4において主張する違法事由は相続財産の評価に関するものであつて、仮に本件更正処分にそのような事情が認められたとしても、これが重大かつ明白な瑕疵と評価できないことは明らかである。したがつて、請求原因4の主張は、課税処分の無効をきたすべき違法事由としては、失当といわざるを得ない。

三  次に請求原因5について判断する。

成立に争いのない甲第一号証によれば、本件更正処分の通知書には、<1>更正前の課税標準等及び税額等、<2>更正後の課税標準等及び税額等、<3>更正前の納付すべき税額が減少する部分の税額などの記載があり、国税通則法二八条の定める記載要件をすべて充たしていることが認められる。

原告は、前掲甲第一号証には「この通知により減少する税額」と記載されており、「更正処分によつて減少する税額」の記載がないことを論難するが、国税通則法二八条は、原告主張の用語の使用法まで定めたものとは解されないうえ、甲第一号証の表題部には不動文字で「相続税の更正通知書」と記載され、「この通知により納付すべき又は減少する税額」という欄を設け、その税額の記載がされているのであり、これが、国税通則法二八条二項ニにいう「その減少する部分」の税額を表示していることは明らかであるから、原告の主張を採用することはできない。

四  以上によれば、結局原告が主張する違法事由はいずれも失当であつて、理由がないことが明らかであり、本件記録を精査しても他に本件更正処分が無効となるような違法は認められないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川端浩 裁判官 伊藤茂夫 裁判官 坪井祐子)

物件目録

一 岐阜市大字曽我屋字乙井二〇一七番一

田  二四七平方メートル

二 同所  二〇一八番一

田  三七六平方メートル

三 同所  二〇一八番三

田  三・三平方メートル

四 同所  二〇二〇番二

田  八九平方メートル

五 同所  二〇一四番一

畑  三八三平方メートル

六 同所  二〇一五番一

原野 一七六平方メートル

七 同所  二〇一六番一

原野 五三平方メートル

八 同所  二〇一九番一

原野 一五二平方メートル

九 同所  二〇二一番一

原野 二八平方メートル

一〇 同所 二〇二七番三

田  一五六平方メートル(持分四分の一)

一一 同所 二〇二八番二

田  六七平方メートル(持分四分の一)

一二 岐阜市大字一日市場字大堰下四七番二

畑  一二五平方メートル

一三 同所 四八番三

畑  三二〇平方メートル

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